PRESS #9 初心者から見たディベートの魅力-初めてのディベート大会を通して-

皆さんこんにちは!暑い夏が終わり、ディベート界のシーズンも下半期に入ろうとしています。秋の調査型ディベート大会の論題も発表され、準備に追われているディベーターの方も多いのではないでしょうか。

今回から数回にわたり、CoDA PRESSでは「ディベート界上半期振り返り企画」を実施します。4月からここまでの半年間のディベート界の取組について、様々な人の目線で振り返っていきたいと考えております!

振り返り企画初回の今回は、先日も記事を執筆してくださった青山さんから寄稿をいただきました。昨年度の全日本大会からディベートに関心を持ち、実際に選手として大会に出場して「優勝&ベストディベーター賞」という結果を掴んだ青山さん。今度は「観戦者」だけでなく、「競技者」としても大会に参加した上での率直な感想を伺ってみたいと思います!

1、はじめに

こんにちは。以前、全日本大会の観戦記を書かせていただいた青山知樹です。私、7月1日に開催された「アビシニアンカップ」に選手として出場しました。今回は、学生時代に一切ディベートに触れたことのない私が、なぜ「アビシニアンカップ」に出てみようと思ったか、その動機と、初めてのディベートを通して感じたこと・考えたことを述べさせていただきます。ちなみに、「アビシニアンカップ」の概要はコチラ。「資料(エビデンス)を運営が配布する」「ディベート初心者・気軽に楽しみたい人向け」が特徴の大会です。

 

2、大会参加の経緯と動機

全日本大会の観戦及び観戦記を書いて以降、仕事が繁忙期に入ったこともあり、中々ディベートと関わることができないでいました。「次にディベートに関われるのはディベート甲子園の観戦かなー」と考えていたある日、今回チームを組んでいただいたあるディベート経験者の方に「こういう初心者向け大会があるから出てみないか」とお誘いいただきました。ここまでが経緯です。

私が誘いを受けてアビシニアンカップへの参加を決めた理由は以下の2点です。

1. 初心者向けの大会であること

2. 経験者とチームを組めること

1点目はアビシニアンカップの概要にある通りですね。具体的には、「資料配布型」という形式故にリサーチの負担が軽減される点、「ディベート甲子園の中学生用フォーマットの大会である」点の2点が、ディベートを初めてやってみるにあたってハードルを下げてくれたように思います。

リサーチについては、配布資料の他、一試合につき2枚まで選手が調べた資料を持ち込めるルールなので、リサーチを全くしなくてもいい、というわけではありませんが、サラリーマンの私にはかなりありがたかったです。「仕事が忙しいから」とリサーチでチームメイトに負担をかけることもない、ということはかなり心理的に参加へのハードルを下げてくれました。また、「初心者である」という視点からはリサーチのノウハウの有無による差も緩和され、参加しやすいと感じました。他チームとリサーチの段階で大きく差をつけられてしまうということもなく、初心者にとって理想的な状態のスタートであったと思います。また、資料が限られているので、「この資料を読まれたらこう返そう」という準備がやりやすかったことも、初心者向けとしてよく考えられているなぁと感じました。

フォーマットについては、一つ一つのパートが短い、という点がよかったと思います。パートが短いというのは、ディベートに慣れてくるとかえって難しいという話も聞きます。しかし、試合中議論を追い続ける必要と、限られた資料の中で議論を組み立てるという負荷を初心者の目から見たときに、パートが短いことは魅力的で、とっつきやすく感じました。やはり1パートあたりの時間が長いと、「そんなに長い時間、密度のある議論を準備できるのかな」、「しっかりフローを取って、かみ合った議論ができるのかな」という不安を、初心者としては感じてしまいます。

総じて、初心者であることが足かせにならないようにとよく考えてある大会であると考えられ、「それならなんとかなるかな?」と参加を決めました。

2点目の「経験者とチームが組める」点については、私はたまたま経験者の方に誘っていただいたという、完璧に個人的で特殊な事情です。しかし上に述べた大会の形式由来の参加のしやすさと同じく、私の大会参加に欠かすことのできなかった理由の一つなので上げておきます。私は初心者、というか今回が初めてのディベート大会でしたので、そもそも、試合に向けて何をすればいいか(当然)わかりませんでした。事前知識のないまま手探りでやってみる、というのも初心者ならではの貴重な経験だとは思います。しかし、試合に向けてどのような準備がどの程度必要なのか、作った議論をどのような形に整形しておけばいいのか等準備段階におけるノウハウや、各パートのポイントや醍醐味、当日の動きや注意点といった経験者からしか得られないものを吸収しながらの方が、初めてのディベートをより楽しめると考えました。特に、私のような社会人は手探りでやるには時間がないので、どうせやるのであれば、凝縮された経験をしたかったのです。

以上が学生時代にディベートに触れることのなかった私が、アビシニアンカップ出場を決めた理由となります。

 

3、ディベートをやってみて感じたこと・考えたこと

続いて、実際にディベートをやってみて感じたこと、考えたことを述べていきます。

実際は個別の議論の内容などについても様々に思うところがあったのですが、紙幅の都合もあり、ディベートの「内在的面白さ」と「ディベート以外のところで役にたつ」という観点から、一般化しやすい以下三つの点について述べていきます。

1. 口頭「のみ」のコミュニケーションの難しさ・奥深さ

2. ディベートのゲーム的おもしろさ

3. 短期間に密度の高い議論を行う経験

まず1の口頭「のみ」のコミュニケーションという点について。ディベートの試合では、「試合中に選手から発せられ、ジャッジに伝わった言葉」のみがゲームの要素となります。如何に精緻なロジックを準備しようと、膨大なデータから妥当な結論を引き出そうと、わかりやすく口頭で伝えられなければディベート的には無意味です。この「口頭のみ」という点にディベートならではの難しさ・奥深さを感じました。日常で私たちは、口頭のみでモノを説明することはありません。学校の授業や、会社の会議を想像してください。説明する事柄が難解であるほど、レジュメを用意したりPCでスライドを見せたりと、口頭以外の何らかの補助を用いつつ他人に語り掛けるはずです。ディベートの論題になるような事柄であれば、口頭のみで説明しようとは普通しないでしょう。しかし、ディベートでは敢えて「口頭のみ」の説明にチャレンジすることになります。それも単純なスピーチでのテクニックだけではなく(勿論スピーチの技術も大切です)、論理の構成や言い回しといった原稿を準備する段階から工夫していくことになります。私は「話す」よりは「書く」タイプの人間なので、相当苦戦しましたが、この「敢えて」のチャレンジは、日常における自分のコミュニケーションのレベルアップと相対化に役立ったと思います。「もっと良い言い回しはないかな?」「これは口頭でも説明できるだろう」等々、表現について以前よりよく考えるようになり、人前で話すときにより伝わりやすい話し方を意識するようになりました。

2点目のディベートのゲーム的要素というのは、「動機」の部分でも少し触れた、「相手がこう来たらコレで返そう」「こういう流れになるように誘導しよう」という準備と、実際の試合での応酬のことです。この駆け引きにディベートの持つゲームとしての側面を強く意識させられました。ディベートは知的なやり取りをするゲームですが、アビシニアンカップでは、資料が限定されていることもあり、この駆け引きはトランプや将棋といった「互いに手の内がわかった上で読み合いをするゲーム」に似ているなと感じました。

後で聞いた話では、資料が制限されない通常の大会では、他チームとの練習試合を通してどのような資料が用いられるかを調査していくそうです。その中で論題発表当初は有力であった議論が対策されたり、新たに資料が発見されたりと、様々に議論が深まる要素があるようですが、今回は資料固定の大会で準備期間も少し短めでしたので、そのような議論の変遷という部分は経験出来ませんでした。これは少し残念に思っている点です。なぜなら、自分のチームメンバーとだけでなく、大会出場者全員で議論を作っていくという、単純な勝ち負けを超えた面白さ・奥深さがそこにあるように思うからです。今後ディベートの大会に出場する機会があれば、「議論をみんなで作っていく」経験ができるようにしてみたいです。

3点目の「短期間に密度の高い議論を行う経験」について。「短期間に密度の高い議論を行う」というのは、準備期間のチームメイトとのやり取りのことです。このことには二つのメリットがあります。一つは「思考力に負荷をかけられること」、二つ目は「生活から離れられること」です。

「思考力に負荷をかけられること」と何がいいのかというと、要するに難しいことを考える力がつく、ということです。例えるなら筋トレのようなもので、高い負荷をかけ続けると、次第に慣れて、高負荷状態に耐性ができていきます。それが日常でも活きてくる、というわけです。特に私のケースでは、準備期間が短かった(約3週間)こともあり、短い時間で集中的に考え、そして型にはめて(ディベートのフォーマットに落とし込んで)アウトプットするという非常に負荷の高い経験ができました。また、技術的な面でも、少人数のチームで集中的にタスクをこなすノウハウが身につきました。この経験は普段の仕事でも、「もうひと踏ん張り必要だ」という時に役立っています。

二つ目の「生活から離れられること」について。これはどういうことかというと、ディベートの準備をしている間(私の場合は仕事後帰宅してからの数時間と休日の間)、仕事や学校といったものが中心にある「メインの生活」から離れて、ディベートを中心にした「サブの生活」に没入するということです。そうすることで、ともすればそれを人生のすべてであると思い込みがちな、仕事や学校中心の生活を突き放して眺められるようになります。特にディベートでは、一人きりで打ち込む趣味とは違って、チームメイトとスケジュールを決めて準備をしていく都合上、「今日はいいや」となぁなぁにしづらいので、よりこの「サブ生活」を意識しやすいと思います。ディベートの効用に「多角的な視点を得られる」「固定観念にとらわれなくなる」ということがよく挙げられますが、これは「議論」についてだけでなく、自分自身の生活・人生についても言えることだと私は考えています。また、そうした抽象的な話を抜きにして、日ごろのストレスフルな生活から逃れて知的作業に没頭するということは、シンプルに楽しいです。

 

4、おわりに

以前の寄稿では、「観戦だけでもディベートの効用は実感できる」ということを書きましたが、やはり実際にやってみないとわからないことは結構あったように思います(勿論観戦には観戦に固有の面白さがあると思っています)。初心者、特に初めてディベートやってみるという人にとって、チームメイト探しが一番のネックになるかと私は考えていますが、それさえクリアできるのであれば、そして少しでもディベートに興味があるのなら、是非一度チャレンジしてほしいと思います。きっと、ディベートを楽しみ、たくさんの発見ができるはずです。長くなってしまいましたが、以上となります。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

青山さん、ありがとうございました!

ディベートの面白さを、社会人であるご自身のバックボーンと体験をもとに語っていただきました。特に、「自身の生活自体を客観体に見つめる」という視点は、社会人になってもディベートを続けるにあたっての大きな動機といえそうです。

さて、今回青山さんが参加した「アビシニアンカップ」の続編である「バーミーズカップ」が、10月に開催予定のようです。ディベートを新たに始めてみたい方も、また準備に時間を取れないけれどディベートをする機会を持ちたい社会人の方も、ご関心があれば是非以下のリンクをご覧ください!申し込み期限まで1週間を切っているようなので、参加登録はお早めに。

http://coda-room.wixsite.com/room/project-1

是非、「非・日常」の議論空間を一緒に楽しみましょう!