PRESS #10 「ディベート」を見つめ直して―「再出発」の場としての新人大会

新人大会実行委員長を務めた極山さん

皆さんこんにちは。12月の全日本大会に向け、ディベーターの皆さんも、そしてわれわれCoDAも、本格化する準備に奔走する時期となりました。今年の全日本大会では、論題解説や様々な特集記事を通して大会の魅力、ディベートの魅力を発信する取り組みを行っているので、是非皆さまも本HPのニュースリリースをチェックしてみてください!

さて、今回のPRESSでは、今年度にCoDAの新人大会の実行委員長を務めてくださった極山さんから、大会運営に携わっての感想やディベーター人生の中での「新人大会」の位置づけについて寄稿をいただきました。来年の新人大会への出場を考えている方や将来大学でディベートを始めるか迷っている高校生の方、それに大会運営に関心のある方も、必見の内容です!

 こんにちは。第20回全日本学生新人ディベート大会(以下、新人大会)の実行委員長を務めさせていただいた極山大樹と申します。この度、新人大会の振り返りについて寄稿させていただきます。

 

1.新人大会に向けた取り組み

まず、新人大会の実行委員会の活動は、大きく分けると、ア)大会当日の運営及びその準備、イ)特別企画の立案・準備・運営となります。日々の活動は、実行委員それぞれが多忙であったことや居住地が離れていたことから、基本的に個人単位で行い、各自のタスクを実行委員長が管理するといった形をとりました。

 

2.特別企画について

今回の新人大会の一つの特徴は、例年に比べて特別企画が多かった点にあります。また、実行委員の活動として最も大変だったのも特別企画でした。

特別企画として行ったものは、スタートダッシュ講習会、振り返り講座、練習会、オンライン練習試合、即興ディベートです。

その中でも、スタートダッシュ講習会の内容の決定が難しかったです。新人大会には、ディベート経験者と未経験者の両者が参加するところ、経験者にとって有意義な内容であれば未経験者にとって難しすぎるのに対し、未経験者にわかりやすくすれば経験者にとって有意義にならない可能性が高いため、両者にとって有意義な内容にするための方法を考えました。最終的には、講習会を午前と午後にわけ、午前では未経験者を対象とした内容、午後では未経験者・経験者の両者を対象とした内容にすることにしました。

結果として、多くの方に参加していただき、アンケートの回答を見る限り満足度は高かったため、成功だったかと思います。もっとも、未経験者がディベートをするにあたって必要な情報が提供できたかについては反省の余地があるため、内容面及び開催回数についてもう少し検討すべきだったと感じています。

 

3.大会運営の魅力

大会運営の魅力は、次の2点にあります。

1点目は、「社会に出てから必要なスキル」を身につけることができる点です。大会運営では、依頼メールの送り方、企画のタイムテーブルの作成・企画の実行、また、実行委員長であれば全体のタスクの管理、動態表の作成などを経験することができます。これらは、ただ学生生活を送っているだけではなかなか経験できることではありません。しかし、特に依頼メールの送り方やタスクの管理等は、社会に出てから必須であると思われるため、それらを経験できる点に大会運営の魅力があります。

2点目は、人脈を広げることができる点です。大会運営を通して、実行委員はもちろんのこと、理事・ジャッジ・スタッフの方々と接することができます。特に、ディベート界には社会の第一線で活躍されている社会人の方が多くいらっしゃるため、その方々と接することができるのは、他の活動と代えがたい非常に貴重なことであると思います。

以上の2点に加え、選手として大会に出場したことがある方にとっては「ディベートの意義を問い直す機会」になるという魅力があります。選手として大会に出場する際には、議論作成や勝敗を重視しており、大会期間中にディベートや大会の意義自体を問い直すといったことはあまりないかと思います。他方、大会運営とは、むしろディベートや大会の意義を検討した上なされますし、その検討を欠いた大会運営はあり得ません。私自身、特に特別企画を立案する際に、ディベートや大会の意義を改めて考えることができました(先に述べた講習会の内容の決定の際など)。ディベートを続ける理由は、人それぞれあって良いと思いますし、純粋に楽しいからといった理由も大切だと思います(私自身がディベートを続ける大きな理由の1つは楽しいからですし)が、もう一段深く検討することで、ディベートと向き合う姿勢を向上させていくことができると思います。

 

4.新人大会の位置づけ及び大学以降のディベートの魅力

新人大会は、大学ディベートのスタートラインとして位置づけられる大会であるとともに、参加資格が人生で一度しか参加できない大切な大会です。私も大学1年生の時に新人大会に参加しましたが、思い出深い大会となっています。そのため、新人大会に参加された方、また、今後新人大会に参加される方の人生にとって重要な大会にしていただきたいと思います。

他方、先に述べたとおり、あくまで新人大会は、大学ディベートの「スタートライン」として位置づけてほしいです。近年、新人大会に参加された方の中で、その後ディベートを続けている方が非常に少なくなっています。特に気になるのは、中高ディベートの経験者が、新人大会にだけ出場してその後大会に出場しないケースが多いことです。高校からディベートを始めている私の個人的な思いとしては、是非、新人大会以降もディベートを続けてほしいです。なぜなら、大学以降のディベートでは、中高時代にはなかった経験をできるからです。

その1つは、ディベートを通して本当の力を身につけることです。なぜなら、ディベートを通して本当の力を身につけるためには、自らが専門的な学問を学ぶことが必要であり、それを学ぶのは大学以降だからです。例えば、ディべートの価値の1つである多角的な視点を身につけることを例に挙げます。中高時代にも議論作成及び試合を通して自身と異なる視点の存在を認識できたと思いますが、それは感覚の違い(1つの事柄に対して「感覚的に」当然に善いと思っていたところ、他の人はそれを悪いと思っていた等)を認識するに留まることが多いのではないかと思います。もちろん、証拠資料によって専門的な観点を導入して議論し合っていたとは思いますが、その理解度が高かったとはあまり言えないと思います。他方、大学以降におけるディベートでは、自身が専門的な学問を学んでいるため、理論に基づいた視点の違い(1つの事柄に対して「自身が専攻している法学的視点からは」当然に善いと考えられるところ、経済学的視点を持つ人からは悪いと考えられる等)を認識することができます。そして、前者は感覚的な違いを知れるのに留まることが多いのに対し、後者は理論に支えられているため自身の考えや行動に取り入れることができます。これこそまさに、実社会における意志決定の訓練といった、ディベートの本旨に則った価値を享受していると言えるのではないかと思います。

加えて、中高時代は同じ学校の生徒としか議論を交わせなかったのに対し、大学以降は違う大学の学生・社会人の方と議論を交わせるため、考え方の幅も広がりますし、議論することをより楽しむことができます。

このように、大学以降のディベートでは、中高時代に得られなかったものを得ることができます。そのため、新人大会はもちろんのこと、それ以降の大会にもより多くの人に参加してもらい、その価値を実感していただきたいと思います。

 

以上、新人大会についての取り組みや、新人大会及び大学以降のディベートについての個人的な見解を述べました。今回の寄稿により、ごく僅かであったとしても、ディベート界に貢献できたとしたら幸せです。

最後に、このような機会を与えていただいた全日本ディベート連盟の関係者の皆様に深く感謝申し上げます。

 極山さん、ありがとうございました!様々なバックグラウンドの人が集まる大会において、「ディベートの意義」にまで立ち返って企画立案をされてきた熱意が伝わってきました。また、新人大会出場者に向けた「ディベートを続けてほしい」というメッセージも印象的です。大学に入るということは、何かしら自分の専門分野を持つということであり、それは高校までのディベートよりも一段高い視点を与えてくれる―大学生の競技者としても活躍されている極山さんならではの視点といえるのではないでしょうか。

ある意味、こうした競技者と運営双方の関わり方を通じて、新人大会は、様々なディベーターの「再出発」のきっかけになりうるということかもしれませんね。

 

さて、改めてにはなりますが、12月には全日本ディベート選手権大会が開催されます。参加を最終締め切りはまだこれからなので、参加を検討されている方は是非ご応募を!

また、今大会でも、極山さんの新人大会と同様様々な特別企画を用意する予定です。観戦等でのご参加も歓迎ですので、是非当日は大会会場に足を運んでいただければと思います。