ディベートのすすめ③

さて今回は第3回ということで、連載の折り返し地点までやってきました。
今回は、議論の「型」をメインに説明します。
もう少し具体的に話すと、説得的な主張をするためのポイントと、試合の議論の核となることが多い「メリット・デメリット」のフレームワークについてです。
「フレームワークっていきなりマニアックな内容!?」と思う方もいるかもしれませんが、多くの試合ではこの「メリット・デメリット」のフレームワークを使って議論を進行することが多く、実際のスピーチでもこのフレームワークで用いている一種の専門用語が出てきます。
そのため、実際に試合を観戦する際には、そのフレームワークの中身や用語の意味について理解をしておく必要があります。そのため、ここで解説したいと思います。今回の説明をお読みいただければ、実際に見学をした際に、試合の内容について大まかに理解いただけるかと思います。


1:説得的な主張とは?

まずメリット・デメリットの話をする前に、説得的なの主張をする上で、重要な点があるのでここで解説します。
ディベートで議論をする際に、選手達はなに気をつけて議論をしているかというと、「理由」です。
積極的な主張を論理的にするには、理由が不可欠です。例えば、
「明日は雨が降る」
「明日は天気予報によると雨が降る」
だと、納得感が違うのではないでしょうか。では次に、
「明日は占いによると雨が降る」
という主張であるとどうでしょうか?同じく理由があるにも関わらず、納得感は下がるのではないでしょうか。実は説得的な主張を作るためにはもうひとつ考えるべき視点があります。それは理由の「前提」です。
「明日は占いによると雨が降る」は「占いは正しい」という前提のもと、理由付けが成り立っています。つまり、この前提である新たな主張が納得できなかったため、「明日は占いによると雨が降る」という主張も納得できなかったのでしょう。
このように、一つの一つの主張を考える際は主張そのものではなく、一歩先にある「理由」「前提」を意識して議論を考えます。

まとめ
・説得的な主張をするためには「理由」が必要
・「理由」だけではなくその理由の「前提」も重要なポイントとなる

2:メリットのフレームワーク

次にメリットのフレームワークについて、例を出しながら考えていきましょう。
身近な例を考えてみましょう。「○○さんは部屋の片付けをすべきか」を議論する際に発生するであろうメリット「部屋を片付ければ友達を呼べる」という例を考えてみます。
メリットを考える際、ディベートでは3つの要素に分解して考えます。
まず1つ目の要素は「現状に問題があること」です。
例えば、部屋を片付けるにしても、実はもうすでに人を呼べるほど部屋は綺麗かもしれません。現状を変えなければならない必要性がなければ、わざわざ新しいアクションを起こさなくてもよいということになります。
2つ目の要素は「問題を解決できるか」です。
例えば、部屋も汚く、現状に問題もある中で、もしかしたら、この人は大変忙しく、部屋を片付ける時間がないかもしれません。また、なかなか物を捨てることができなかったり、整理整頓ができない性格かもしれません。そうであれば、部屋を片付けるというアクションを取らないでしょう。つまり、新しいアクションをとることで一つ目で上げた問題点が解決することを論じる必要があるということです。
最後の3つ目の要素は「その問題は次のアクションを取らなければならないほど重要か」です。例えば、現状、部屋が汚くてとても友人を呼べる状態ではなく、またきちんと部屋を片付けることもできとします。しかし、この部屋を片付ける人がそもそも友人を部屋にあげたくない人であったり、友人を部屋に上げたいけど、今は勉強中で友人と部屋で遊ぶどころではないので、呼べようが呼べまいが関係ないかもしれません。このように、仮に問題があったとしても、その問題の程度が小さいことを示していく必要があります。

以上のように三つの要素に分けて、ディベートではメリットを考えます。
頻繁に使われるフレームワークのため、それぞれの要素に名前がついています。
「現状に問題があること」を内因性
「問題が解決すること」を解決性
「解決する問題が重要であること」を重要性
と呼びます。試合の中でも「内因性の二点目の議論を見てください」、「重要性の一点目について反論をします」など、このある種の専門用語を用いて議論を行っています。以上がメリットの要素の話です。
また、少し話はそれますが、メリットを論じる肯定側の立論では上の三つの要素は別に「プラン」という単語がでてきます。これは、論題を導入した際の詳細な方法となります。

まとめ
・メリットには以下のフレームワークを使って議論をしている。
「内因性」現状に問題があること
「解決性」問題が解決すること
「重要性」解決する問題が重要であること

3:デメリットのフレームワーク

では、続いてデメリットの要素について説明します。といっても、メリットの三つの要素が理解できていれば、デメリットの要素はある種反対になっているため、すぐに理解できます。
デメリットは、新しいことをすることで生じる新たなよくないことです。
つまり、それを論じるためには、現状に問題がないにも関わらず、新しいアクションをとることで新たに問題が発生することを論じなければなりません。
そのため、デメリットでは一つ目の要素として「現状に問題が起こっていないこと」を論じる必要があります。メリットの”内因性”と逆の考え方ですね。
残りの2つについては、メリットとほぼ同様の考え方をします。
「問題が発生するか」「発生した問題が次のアクションを取らないことを妨げる程大きなものか」の二つです。デメリットの構成要素についても、名前がついています。
「現状にないこと」を固有性
「問題が発生すること」を発生過程
「発生する問題が深刻であること」を深刻性
と呼びます。
ディベートの試合においては、このメリットとデメリットのこの3つ要素を争点にして議論を進めることが多いです。
例えば、肯定側のメリットへの反論であれば、否定側の立場であれば現状に問題が本当にあるのか?という点を考え、反論をすることで効果的な議論が可能です。
また、勝敗の判定をつけるジャッジもメリットやデメリットが試合中に出た場合にはこのフレームワークを使って、大きさを考えています。それぞれの要素を掛け算するイメージです。

まとめ
・デメリットには以下のフレームワークを使って議論をしている。
「固有性」現状に問題がないこと
「発生過程」問題が発生すること
「深刻性」発生する問題が深刻であること

4:プランについて

肯定側の立論では主にメリットを論じます。そのため、普段は聞きなれない上の三要素が専門用語のように出されますが、もう一つ「プラン」という単語がでてきます。
このプランとは論題の是非で論じる新しいアクションを詳細化したものになります。例えば、「日本は死刑を廃止すべきである」という論題で考えられるプランとしては「死刑の代替刑を無期懲役にする」などです。
もちろん、制度の詳細を全て考え抜き、またそれを限られた立論の6分間の中で話すことは難しいです。そのため、議論の争点になりやすい部分を肯定側から明示します。

まとめ
・「プラン」とは肯定側が示す政策の詳細

5:結びと次回の予告

今回は議論の型とプランについて解説させていただきました。
これまでの解説で、ディベートの試合を実際にみる準備が整いました。
因みにディベートの試合中は、選手、ジャッジ、また多くの見学者がメモを取っています。
このメモのことをフローシートと呼びます。ディベートの試合の内容を全て頭の中に留めておくことは難しいため、試合の内容を把握するためのメモをとります。
初めは取ることが難しいですが、段々と慣れていくので、試合を観戦する際は、ぜひフローシートを書くことに挑戦してみてください。
さて、最後はディベートの試合に向けてなにをすべきかを簡単にご紹介したいと思います。試合をしている選手が、どのような準備をして、試合に臨んでいるか、試合からは見えない裏側を解説いたします。